条件不利地域におけるブロードバンド整備の現状

光ファイバ,xDSL,CATVなどによる高速インターネット接続であるブロード バンドの普及率は,平成16年3月末現在で契約数世帯比が27.6%となりわが国 は世界的に見ても上位に位置している.また,接続料金については全世界で 最も安価となっており,都市部のブロードバンド化の進展は著しい.しかし, 離島や山間部など都市から離れた条件不利地域に目を向けてみると,情報通 信基盤の整備は進んでおらず国土全体に渡って遍くブロードバンド化が進展 しているとは言い難い.ブロードバンド整備を担う通信事業者が非採算地域 に対する設備投資に消極的であることがその原因の一つである.通信事業者 も民間企業なのでこれは当然のことと言える.

条件不利地域であってもブロードバンドが必要であることは言うまでもない. 特に,生活水準の向上,経済発展,行政の効率化・情報化のためには不可欠 とされている.ブロードバンドが整備されることにより,物流を伴わないコ ンテンツ産業の振興や地域外に対するユニークな観光情報の提供,特産物の オンライン販売などが可能になるとこれまで言われてきた.また,映画・音 楽・ニュース・気象情報などのコンテンツ配信やe-ラーニングによる多種多 様な教育機会の提供などが外部から行われて,文化・教育の分野での地域格 差の解消を果たすことができるとも考えられている.

技術的には条件不利地域においてもブロードバンド整備は難しくない.住宅 や事業所まで光ファイバを敷設さえすれば,あるいは,住宅や事業所に衛星 インターネット用設備を設置さえすれば,いますぐにでもブロードバンド環 境は実現できる.費用が唯一かつ最大の問題である.この費用の問題の解決 のため,これまでさまざまな取り組みが行われてきた.

自治体による光ファイバ網の整備がその代表である.しかし,自治体が整備 するのは基幹網の他は役場や学校など公共の施設までの回線であり,住宅や 事業所までブロードバンドが整備されるわけではない.岡山県のように自治 体が敷設した光ファイバ網などを通信事業者に提供し,住宅や事業所までの ブロードバンド整備を促す例が複数あるほか,ブロードバンド設備を自治体 が導入し通信事業者に貸し出す形でブロードバンドが整備された例もある. 中には,大分県津久見市のように一般住民向けに自治体がブロードバンドを 整備した例も稀にある.しかし,条件不利地域を抱える小規模な自治体は財 政的に厳しい状況に置かれていることが多く,こうしたブロードバンド整備 への事業費の拠出は難しい.

一方,通信事業者に対して地域住民や自治体などが働きかけてブロードバン ド整備を実現した鹿児島県与論町,知名町,和泊町のような例もある.しか しこれは,通信事業者に対して一定の契約数を担保することによりようやく 実現できたものである.世帯数が一定程度以上あり,比較的少ない設備投資 で通信事業者がブロードバンドを整備できる地域でなければ同様に実現する のは困難である.小規模な離島や山間部の孤立した集落などはそもそも多く の契約数を望むことができない.また,契約数を担保したとしても,近隣ま で光ファイバが敷設されておらずブロードバンド整備に莫大な設備投資が必 要であるため,通信事業者による整備は難しい.

これらのことから,都市部から遠く離れ,世帯数が少なく,目立った産業が ない,小規模な離島や山間部などの特に条件が不利な地域においては,技 術的には可能であるにもかかわらず自治体や通信事業者によるブロードバン ド整備はコストの点からほぼ不可能な状況にあると言っていい.莫大な費 用が必要なため,小規模離島を対象に海底光ケーブルが敷設されたり,山間 部の孤立した数世帯から数十世帯数の集落向けに光ファイバが敷設されたり することは現実的ではない.

鹿児島県の現状

平成17年度情報通信白書(資料編 資料1-5-3 都道府県別情報化指標)に よれば鹿児島県は,ブロードバンド契約数世帯比が10.4%と全国平均の半分 にも及ばずブロードバンド普及率は最下位である.また,情報通信業の有業 者の割合についても,全国平均が2.7%であるのに対し鹿児島県は0.7%と全国 最下位である.さらに,学校(初等中等教育機関)の高速インターネット接続 率も全国最下位の37.0%に止まり,全国平均の71.5%のおよそ半分に過ぎない. 家庭,産業,教育と,インターネットが活用されるべきすべての分野で,ブ ロードバンド化が最も遅れた地域となっている.

離島や山間部など条件不利地域の多さ,農業従事者が多い産業構造,高い高 齢化率などが原因と考えられているが,必ずしもそうとは言えない.例えば, 鹿児島県より離島が多い沖縄県や長崎県は全国平均には及ばないものの,鹿 児島県よりブロードバンド化は進んでいる.都市から距離がある地域が多く 農業従事者が多い北海道も鹿児島県よりブロードバンド化が進んでいる.高 齢化率が鹿児島県とほぼ同じ東北地方や山陰地方の各県などと比べても鹿児 島県のブロードバンド化の遅れは目立つ.特に,鹿児島県のブロードバンド 契約世帯数比と学校の高速インターネット接続率は他都道府県と比較して著 しく低い.

使わないので整備が進まず,学校でブロードバンド接続ができていない.子 どもたちはブロードバンド体験できないので興味を持たず,情報技術を身に つけない.結果として,情報産業の従事者は増えず,分からないことがあっ ても質問できる人がいない.分からないのでブロードバンドは使わないとい う負の循環ができあがってしまっているように思う.家庭・産業・教育,そ れぞれの分野でのブロードバンド化の遅れが互いにマイナスの影響を及ぼし 合い,現在の状況に至っていると考えられる.