A. 条件不利地域におけるインターネット接続の共用技術の研究開発

専用回線や衛星インターネット設備を条件不利地域の一世帯や一事業所で負担するのは,費用対効果を考えれば難しい.しかし,複数の世帯や事業所が共同で利用すれば世帯数で除した負担額でよい.もちろん,多くの世帯や事業所で共用した場合は帯域が不足することが考えられるが,数十世帯以下,すなわち数十台以下のパソコンで数Mbpsのインターネット接続を共有するのであれば,共同住宅向けのブロードバンドサービスや単一の事業所内に構築されたLANとほぼ同等であり,通信事業者が提供するベストエフォート方式のブロードバンドサービスに比べて速度が著しく劣ることはないと考えられる.

そこで,本研究では,複数世帯・事業所によるインターネット接続の共用に,専用回線及び衛星インターネットを応用するための技術の研究開発を行う.はからずもブロードバンド整備が進んでいない条件不利地域は世帯数が少ない.上流回線を共用するこの方法は条件不利地域にこそ適した方法であると言える.コミュニティ・ブロードバンドの整備に当たっては,専用回線の利用の可否,確保可能な帯域,主に使用するアプリケーションなどの観点から,専用回線を用いるか衛星インターネットを用いるかを判断することになる.

B. 無線LANによる地域内ネットワーク構築技術の研究開発

インターネット接続を共用するためには,地域内の複数の世帯を結ぶTCP/IPネットワークが必要である.ブロードバンドサービスの場合には,光ファイバ・CATV・xDSL・FWAなどにより拠点となる建物と各世帯を結ぶことが一般的である.これらによれば比較的安定した情報通信基盤の提供が可能であるが,いずれも整備には多額の導入費用及び保守費用が必要である.コミュニティ・ブロードバンドは住民が負担して整備することを目指しているので,地域内ネットワークは安価に構築できなければならない.そこで本研究では,事業所LANなどで一般に用いられているコンシューマ向けの無線LANアクセスポイントを用い,数珠繋ぎ方式で拠点となる建物と各世帯を結ぶことにした.この方法であればネットワークを安価に構築でき,故障等が発生した場合でも機器を取り替えるだけですむので保守に必要な費用も安価である.

研究実施地域である鹿児島県は自然災害が多い地域である.台風による様々な被害が毎年発生しているほか,いくつかの離島では火山による被害が発生することもある.無線LANを使用することにより自然災害によって情報通信基盤が切断される危険性を最小にすることも可能となる.

コミュニティ・ブロードバンドにおいては,無線LANの使用目的は2つに分けられる.一つは建物間接続のための手段,もう一つは建物内及び周辺に対するネットワーク接続提供のための手段である.標準的な無線LANアクセスポイントに搭載されているWDS(Wireless Distribution System)のリピータ機能を活用することで,この両者を1台の機器で実現できる.しかし,無線LANアクセスポイント間の距離や台数によっては,十分な帯域を確保できない場合もあり得る.このような場合には,WDSのブリッジ機能を用いて無線LANアクセスポイントを建物間接続のためだけに用い,異なる周波数を用いる無線LANアクセスポイントをネットワーク接続提供のために接続する.住宅が近接している場合など,LANケーブルによる配線が容易で台風等の影響が配線に及ばない場合には,建物間接続をLANケーブルによって実現し,ネットワーク接続提供のための無線LANアクセスポイントを各世帯に設置する.

C. コミュニティ・ブロードバンドを用いた地域内IP電話網の研究開発

無線LAN及び有線LANの双方に対応したIP電話システムをコミュニティ・ブロードバンド上に構築することにより,地域内の音声通話をすべて無料化できる.また,上流のインターネット接続部においてIP電話網に接続すれば,地域外への通話料金も低く抑えることが可能になる.そこで本研究ではコミュニティ・ブロードバンドの具体的な利活用形態の一つとして,コミュニティ・ブロードバンドを用いたIP電話網の研究開発を行うことにした.地域内通話が無料化できることの利点は大きく,IP電話はコミュニティ・ブロードバンドのキラーアプリケーションとなることが期待される.

無線IP電話端末として無線LAN対応携帯電話を用いれば,無線IP電話網と携帯電話網の双方に接続できるため,地域内では地域内無料の携帯電話,地域外に端末を持ち出した場合は一般の携帯電話として活用できるという利点が生ずる.条件不利地域においても携帯電話の普及は進んでいるが,まだサービスエリアになっていない地域もある.使用できるとされている地域であっても,アンテナ設備が十分でないためエリアは狭い場合が多い.無線LANアクセスポイントを必要な箇所に設置することで,サービスエリア外でも携帯通話が可能になる.